長野旅行(2008年6月) 第3日目

長野旅行の3日目。
その日は目覚ましもなしに当初の予定であった午前9時に目が覚めた。
快活CLUBのリクライニングシートは思いの外寝心地がよく、ぐっすりと眠ってしまった。
眠い目をこすりながら飲み物を取りに行く。
よく冷えた炭酸飲料をコップに2杯、温かいカフェラテを1杯飲み干すとPCに向かいGmailなどのチェックをする。
さてと、今日はもう帰るだけなのだなと昨日の強行軍を頭の中で反芻する。
やはりもう一日休みを取ってゆっくりしてもよかったかな、などと一度は思ったが、たまにはこういうのも悪くないとも思い直すことにした。
まとまった休みがあったところで有効に使えるとは限らないし、そもそもまた行けばいいのだ。
明日はもう通常通り会社に出るつもりだし、やらなければいけない仕事がある。
そんなことを考えていると二人の連れがようやく起き出してきた。
身支度を調えて店を出たのは10時を過ぎていたろうか。
せっかく埼玉まで行くのだから途中秋葉原にも寄ってみよう。
そんな話をしながらの出発だった。
(注意:ここから先は例の秋葉原の通り魔事件について触れます。読みたくない方はここでお引き取りを)
 
 
 
 
 
 
それは2008年6月8日の12:30を少し過ぎた辺りの出来事だった・・・。


東名の川崎ICから乗り、首都高速を使って霞ヶ関で降りた。
降り口はこのときのドライバーと一緒に秋葉原に行くときの定石だ。
皇居の周りを迂回して神保町の辺りを掠め、秋葉原のUDXに車を止めると遅い朝食を取ることにして街に出る。
気温もだいぶ上がり、蒸し暑い。
いくつか候補はあったが自分の提案で前から行ってみたいと思っていたシディークという店の「Akiba カレー館」でセットの料理を頼んで堪能した。
このときはまだ11時過ぎだったろうか。
カレーの前に頼んだドネルケバブが思ったよりも量があったので、セットのおかわり無料が利用できなかったのが少し残念だったが、次はうまくやるぞなどと考えながら店をあとにする。
食事のあとは少しあたりをぶらついて、45インチの業務用モニタを欲しくなってみたりドラゴンアイスを食べる人々を横目にデザートもいいな、などと思ってみたりした。
この時点で12時を過ぎていたと思われる。
しばしの散策のあと残るイベントはというとHDDの購入だ。
せっかく秋葉原まで来たのだからと思いつつも何故かあまり遠くまで移動する気にならず、近くのコンビニで現金をおろすとツクモで1TBのHDDを購入した。
そのあとで帰る前に少し寄り道を、という話になり秋葉原駅前に向かって移動する。
ソフマップ秋葉原本館前の交差点を駅側に渡ってすぐにそれは起きた。
あまりにも突然だった。
数十メートル後ろと思われる辺りからどすん、という鈍い音が聞こえ、続いて女性とおぼしき悲鳴。
何事かと振り返るとうなりを上げ全力で加速するトラックが目の前を横切っていった。
その下には二人の人影。
呆然と立ち尽くす自分の前を通り過ぎたトラックは少し先で止まったようだ。
何人もの人が倒れ、血を流していた。
悲鳴と怒号。
「救急車呼んでっ!」
「今やってるっ!!」
そんな声も聞こえたが動けなかった。
目の前の光景が信じられなかった。
そして、事態は更に悪化する。
どこから現れたのか、挑発するように走り回る白いジャケットを着た男と警官がもみ合ったかと思うと警官が不意に倒れた。
ごろごろと転がるその背中は真っ赤な血に染まっている。
はっとして見回すとほかにも背中を血まみれにした人がいた。
(ニュースで言っていたような男の叫び声は聞こえなかった)
「逃げろっ!」
誰かの叫ぶ声で我に返り周りの人々ともに一斉に走り出す。
ただ、どちらに行けばいいのかまごついていると
「あいつだ、あの男が刺したんだっ!」
そんな声が聞こえた。
指さす先を見やると走り去っていこうとしているさっきの白いジャケットの男が見えた。
道路の向かい側だから数十メートルは離れているようだ。
男は途中で振り返り、警棒を持って飛びかかる警官を跳ね回って迎え撃ち、手に持った何かで受け止めていた。
あとから聞いたところによるとナイフだったそうだ。
何度かやり合ったあと、細い路地に向かって入っていく。
頭が完全に痺れていた。
いくつかの光景がよみがえり、体に震えが来た。
誰かを助けることも警察に通報することも写真を撮ることも犯人を追いかけることも・・・何もできなかった。
震えの来る体を何とか動かして現場を離れ、友人の運転する車でUDXをあとにした。
途中駅前のほうに向かうと何台もの消防車と救急車が見えた。
事情がよくわからないながらも遠巻きに見守る人だかりをあとにして秋葉原を離れた。
あとのことは中途半端にしか覚えていない。
何とか家に帰り着くと痺れる頭で考え、どうやら命拾いをしたのだとようやく納得した。
犯人逮捕の報を聞いてもほっとなどできない。
何もかも、思い出すだけで動揺し、動悸がする。
そんな、人生最悪の日曜日になってしまった。
亡くなった方の冥福を祈りつつ、何もできなかった自分を呪いつつ、今回の旅はここで終わり、再び日常へと戻っていく・・・。

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長野旅行(2008年6月) 第3日目 への7件のフィードバック

  1. 管理人 のコメント:

    重ね重ねありがとう。
    殺人現場に居合わせた人間としてはいろいろとかなり複雑ですがそのうち(気持ちも)落ち着くと信じます。
    今日にでも献花台に花でも置いてこようと思います。

  2. ちゃみ のコメント:

    なんということでしょう…拝読させていただきぞっとしました。
    冗談めかして話のネタなんぞにしてしまいまして、心から申し訳ございませんでした(_ _;
    しかし、ご無事で何よりでした…。

  3. けーこ のコメント:

    うわーん(>_<) 恐いですね。
    ご無事で何よりです。
    こういう事件はもう勘弁して欲しいです。

  4. 管理人 のコメント:

    正直に書いてしまうと、もし助けに行っていたらちょうど犯人と出くわして刺されていたかもしれないということを考えて、助かったと思ってしまう自分に腹が立っている訳ですよ。
    しかも、今回ほどではないにしても緊急事態に際して動けないことで、自分の大事な人を失うかもしれないという恐怖もあります。
    なんと言いますか、情けないことに当分は感情の揺れ幅が大きくてとても冷静に物事を考えられそうにないので、アドバイスは有り難くちょうだいするにとどめます。
    そのうち理屈で考えられるようになったら、そのときに。
    ありがとう。

  5. Hitomi のコメント:

    それはそれは災難でしたね。
    いろいろと気に病むことはあるだろうけれど、気にしない方が良いよ。
    にこちゃんも言っているけど、本当にその通りだとおもう。
    すばらしい事はすばらしい人に任せて安心。
    すばらしい人になることを目指せばいい。
    そうでない人の方が多いし、無理して背伸びする
    必要もないよ。分相応で十分。

  6. 管理人 のコメント:

    お気遣いありがとう。
    まあ、このなんともいえない無力感は当分消えないと思うけど、きっと何とかなるでしょう。
    頭ではいろいろと理解したつもりでも、心が受け入れられないって感じでしょうか。
    (気に病んでも仕方がないとか)
    思い出すとちょっと動悸がするくらいでそれ以上体調は悪くならないのが救いかな。
    少し時間をかけて通常モードに戻していきます。

  7. nico のコメント:

    お疲れ様~。
    取りあえず、無事で何よりです。
    まぁ、何も出来なかったって事をあまり気に病まない方がいいよ。
    確かに、非常時に他人を助けたり犯人取り押さえたりとか、出来たら素晴らしいけど、普通は出来ないからこそ素晴らしい行動なワケで。
    ハナからやる必要が無いと決め付けるのも駄目だけど、出来なかった事を気に病むことも無いと思うよ。

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